あまりの長文なので,まずは,一般的なルールとソチ風の点数計算です.次回は,サンクトペテルブルク,ロストフなど,さまざまなバリエーションを紹介します.
(2013.9.12) 子が2人とも下りたときのルールの2つの段落の順序を入れ替え,一般的な場合を先に,特殊な場合を後にしました.
人数
3~4 人.4 人の方が普通です.4 人のときはカードを配る人が抜けます.
道具
- 4 つの印ごとに 8 枚,32 枚組のトランプ.強い順に,A,K,Q,J,10,9,8,7.ロシアのトランプはこの他に 6 がある 36 枚ひと組で,印は,日本でもおなじみのフランス風です.
- スコアシート: 麻雀の点数計算と同じように,プレフェランスを象徴する存在です.紙を対角線で 4 個所に区切ります.3 人のときは,Y の字で 3 個所に区切ってもよいです.線の交わる中央に円を書き,目標点を記入します.線で区切られた区画 1 つが 1 人に対応します.区画を 3 段に分け,山に当たる上段に失点,麓にあたる中段に得点,裾に当たる下段は,縦線 1 または 2 本で区切り,他の人からもらった点を記録する欄を作ります.サンクトペテルブルク風では山を,ロストフ風では裾をそれぞれ大きくした方がよいです.4 人用の裾は,紙の辺の真ん中から斜めに線を引いて区切る人もいます.各欄には,左上から横向きに,ピリオドで区切って,最新の合計点を書き加えていきます.
席決め
1 枚ずつカードを引き,弱いカードを引いた順に好きな席につきます.席決めのときは,A は 7 より下の一番弱いカードです.カードの強さが同じ場合,印を比べます.印の順は,せりと同じで,スペードが一番弱く,クラブ,ダイヤで,ハートが一番強いです.公式の試合では,席はくじ引きで決めます.
カードを配る
最初にカードを配る人は好きな方法で決めます.例えば,席決めで一番弱いカードを引いた人,自分から申し出た人などです.そのあとは,カード勝負があってもなくても,時計回りに交代します.すべての進行は時計回りです.
配り手は,カードをシャッフルし,右隣の人にカットしてもらってから,手札 10 枚,山札 2 枚を,左隣の人から時計回りに,3 人に手札 2 枚ずつ,山札 2 枚,手札 2 枚ずつ,手札 2 枚ずつ…と配ります.山札 2 枚は,最初か最後にならなければ,どこで配っても構いません.4 人のときは,山札を配り手の近くに置きます.席順は,配り手の左隣が 1 番手で,ついで,時計回りに 2 番手,3 番手となります.
枚数が異なる,カードを表にしたなどの配り間違いがあったら,配り手を変えずに配り直します.配り直しで配り間違いがあったら,配り手は,あらかじめ決めた 2 点 (6 の代の 1 勝不足分の失点なので,サンクトペテルブルク風,フィンランド風なら 4 点) などの失点を払って交代します.
せり
せりでは,ゲームの目標を言います.目標は,切札の種類とカード勝負で何勝以上するか (6~10) の組み合わせです.6 は省いてかまいません.切札の種類には,4 つの印の他に切札なしを指定できます.“切札なし”は,ロシア語の直訳ですが,英語の“ノートランプ”でもいいでしょう.勝ち数が多い目標は,少ない目標より上,勝ち数が同じ目標は切札の種類を比較します.切札は,下から順に,スペード,クラブ,ダイヤ,ハート,ノートランプです.一番下から順に目標を並べると,スペード,クラブ,ダイヤ,ハート,ノートランプ,7 スペード,7 クラブ,…となり,最高の目標は,10 ノートランプです.スペードは 1,クラブは 2,ダイヤは3,ハートは 4,なしは 5 と,切札の代わりに数字を言う人もいます.この場合,7 の代以上は,“1 で 7”のように言います.
これらの目標の他に,10 回全敗を目指す“ミゼール”があります.ミゼールは他の目標と異なり,ミゼール以外を言った人は言えず,ミゼールを言ったら他の目標は言えません.したがって,ミゼールを言いたい人は,せりの順番が最初に回ってきたときにいう必要があります.せりでミゼールに勝つのは,9 の代です.ミゼールに対して 9 の代を言われたら,ミゼールを言った人はパスしなければなりません.ミゼールに対して 9 の代を言われたとき,他では山札を使わない目標を認めなくても,この場合だけ山札なしのミゼールを言うことを認める人もいます.山札なしミゼールの上は山札なしの 9 の代にする人も,山札を使う 10 の代にする人もいます.
1 番手からせりを行います.最初に言えるのは,最低の目標“スペード”か“ミゼール”か“パス”です.
ついで,時計回りに,残りが 1 人になるまで,せりをつづけます.せりに残るためには,最新の目標を後の番手が言ったなら,それを繰り返すか,同じく何々,自分も何々などといい,前の番手が言ったなら,それより 1 つ上の目標を言います.ミゼールは,目標の順に関係なく言えます.これらが言えないときは,パスと言って,せりから下りなければなりません.
せりの例を挙げます.A スペード,B パス,C クラブ,A 同じくクラブ,C ダイヤ,A パスは C さんの勝ちです.Aさん は 1 番手なので,3 番手の C さんが言ったクラブを繰り返しています.A パス,B スペード,C クラブ,B 同じくクラブ,C パスは B さんの勝ちです.C さんは 3 番手なので,2 番手の B さんは“同じく”を言えます.C さんは,クラブ以上を言えなかったのでパスしました.“同じく”でも,最後に残ったのは B さんなので,B さんの勝ちです.
目標の順序を飛び越して,このルール以上の目標をいうことを認める人もいますが,実際のせりは,ほとんど変わりません.個人戦では,強い印を人に教えるメリットがないからです.
全員がパスしたら,宣言なしに,ラスパシーまたはラスパソフカというゲームを行います.これは,切札なしのカード勝負で,どれだけ勝たないかを競います.
ラスパシーの後の手では,せりの最低目標を上げる人がいます.
親と子の宣言
最後までせりに残った人が,親になります.残りの 2 人は 子となり,協力して子の目標を目指します.参考までに,原語では,親は“ゲームをする人”です.子をまとめて指す言葉はあまり使われず,出た子を“ヴィストする人”,下りた子を“パスする人”といいます.親と出た子にはともに目標があり,攻守とは概念が異なるだけでなく,英語圏ではプレフェランスは全く知られていないので,よく使われる英語の用語を避け,簡潔な親子を使ってみました.
親は,2 枚の山札を表にし,全員に見せてから,手札に加え,不要札を 2 枚伏せて捨てます.ついで,ミゼールでなければ,せりの目標順でせり落とした以上の目標を宣言して,カード勝負の切札と目指す勝ち数を決めます.例えば,“(6) ダイヤ”でせりに勝ったら,“(6) ダイヤ”,“(6) ハート”,“(6) ノートランプ”,7 の代以上の目標を宣言できますが,“(6) スペード”と“(6) クラブ”は宣言できません.ミゼールをせりで言わなかったら,ミゼールはできません.ミゼールでせりに勝った場合,ミゼール以外はできません.
山札を引いたあと,親が宣言を 3 勝下回ったときの点を失点して,カード勝負なしに下りることを認める人がいます.このとき親から子に払う点はありません.
主にミゼールで,親が抜けている配り手を招くことを認める人がいます.招待を受けたら,配り手は,親とミゼールの得失点を半分ずつ分け合います.
親の左隣から順に,子は,出るか下りるか言います.出る子は,親の宣言が 6 の代なら 4 勝,7 の代なら 2 勝,8~9 の代なら 1 勝,子 2 人で勝つことを目指します.下りた子には目標はありませんが,一部の例外を除けば点も得られません.10 の代とミゼールには子の目標がないので,子は,出る下りるを言わず,親を捕まえようと (失敗させることです) します.これらの手には,出た子がいないので,カード勝負の方法も他の手と異なります.10 の代の子の目標を 1 勝にする人もいます.この場合,子は,10 の代に対しても,出る下りるを言い,普通にカード勝負を行います.なお,“出る”の原語は“ヴィスト”で,英語の whist 起源の外来語です.この言葉は,英語でも,“ホイスト”というゲーム名以外の意味は失われているので,意訳しました.“下りる”の原語は“パス”です.
子が 2 人とも出る場合,3 人でカード勝負を行い,子 2 人で子の目標を目指します.子 2 人の勝ち数の合計が子の目標より少なかったとき,個人目標より勝ち数が少ない子には失点があります.個人目標は,子の目標の半分です.子の目標が 1 勝の場合,1 勝は 2 人目に出た子の個人目標です.子の目標が 1 勝の場合に,子の失点を出た 2 人の子で半分ずつ分け合う人もいます.
子が 1 人しか出ない場合,子の目標と出た子の個人目標は同じです.出る子は,手を明かすか隠すか選べます.明かす場合,2 人の子は手札を印ごとに整理して表向きに並べ,出る子が 1 人で 2 人分の手札を扱います.隠す場合,下りた子を含む 3 人でカード勝負を行います.手を明かしても隠しても,子 2 人の勝ち数は,すべて出た子のものです.
宣言が 6 か 7 の代で,1 人目の子が下りたとき,2 人目の子は,出る,下りるの他に,“半分出る ”と言えます.原語は,“ポルヴィスタ (半ヴィストの意味)”です.また,宣言が 6 か 7 の代で,1 人目の子が出て,2 人目の子が下りたとき,1 人目の子が出るを半分出るに変えることを認める人がいます.子が半分出たとき,もうひとりの子は,もう 1 度出るか下りるか言います.出るなら半分出た子は下りたことになります.下りるなら親子ともに目標達成,半分出た子は子の目標の半分,親は残りを勝ったとみなして,カード勝負なしに点数計算します.4 人の場合,半分出るに対してもう 1 人の子が下りたら,配り手が,どちらか一方の子の手をみて,出るか下りるか言います.出るなら,配り手は見た子の手札を使って出ます.半分出た子は下りになります.
子が 2 人とも下りた場合,カード勝負なしに,親の 10 回全勝による宣言達成となり,点数計算を行います.このとき,子の目標はないので,子の失点はありません.
8 の代以上の宣言で,2 人の子が下りたら,4 人のときの配り手は,どちらか一方の子の手を見て,出るか下りるか言います.
カード勝負
ミゼールと子が手を明かすときは,親が 1 番手でなければ,カード勝負開始前に,子 2 人の手札を明かします.親が 1 番手の場合,ミゼール以外ではカード勝負開始前,ミゼールでは,親が 1 回目の手札を出してから子 2 人の手札を明かします.親が 1 番手のとき,子 2 人の手札を,親が手札を出す前に明かすか,後に明かすは,ミゼール以外とミゼールのそれぞれで,これとは違うルールに従う人もいます.
ミゼールでは,子は,メモをとったり,作戦を議論して構いません.ミゼール以外では,これらの行為は厳禁です.
10 の代に子の目標がない場合,3 人とも手を明かしてカード勝負を行い,子が全勝を防げるか確認します.ミゼールと同じルールでカード勝負を行う人もいます.
10 枚の手札で 10 回のカード勝負を行います.1 回目は 1 番手,2 回目以降は直前の回の勝者が先手です.先手は,手札から 1 枚を表に向け場に出します.先手の左隣から順に,時計回りに,全員が 1 枚ずつ手札を表向きに場に出します.このとき,先手と同じ印の手札があるなら,出さなければなりません.先手と同じ印の手札がなく,切札がある場合,切札を出さなければなりません.一番強い切札,切札が出てないときは,先手と同じ印で一番強いカードを出した人が,1 回の勝負に勝ちます.
先手と同じ印の手札があるのに出さなかった場合,あるいは先手と同じ印がなく切札があるのに切札を出さなかった場合,ただちに間違いに気づいて直したときは,そのままゲームを続けます.同じ手の後の勝負で間違いが分かったときは,間違えた人が相手側に最低限 1 勝を渡します.この間違いが起こした問題は,すべて間違えた人が不利になるように裁定します.以上は,プレフェランス法典の規定ですが,一般的には,3 勝不足分の失点を払って手を終えます.
ラスパシーでは,切札なしでどれだけ勝たないかを競います.ラスパシーには,山札を使うやり方と使わないやり方があり,どちらにするか事前に決めます.山札を使う場合,1~3 回の先手は,通常のゲームと異なります.最初の 2 回の先手は山札を 1 枚ずつめくって出し,1 番手がそれに続けてカードを出します.3 人の場合,山札が先手のときは,先手と同じ印で先手以外で一番強いカードが勝ちます.4 人の場合,山札の勝ちを認め,山札の勝ちは,抜けている配り手の勝ち数にします.3 回目は 1 番手が先手です.4 回目以降は通常のゲームと同じように直前の回に勝った人が先手です.山札を使わない場合,普通のゲームと同じように 1 回目の先手は 1 番手,以後は直前の回に勝った人が先手です.
子の協力
子は,自分の点数より,2 人で協力して,親の目標達成を阻むことを優先するという暗黙の了解があります.子の協力の例として,子が 2 人とも出た場合,先手の子は次が親のときは弱いカード,子のときは強いカードを出す,子が 2 人とも出た場合,もうひとりの子が勝っているカード勝負を横取りしない,手札を公開しない場合,最初の捨て札 (先手と違う印を出すこと) で強い印を,2 番目の捨て札で弱い印を示す,カード勝負に 1 勝する見込みがなければ出ない,切札が 4 枚あったら下りないなどがあります.これらはマナーであって,ルールではありません.
点数計算
得点,失点,他の人からもらった点を分けて記録します.また,目標点を設定します.10 点,20 点,30 点などがよく使われます.麻雀のように伝統的にお金をかける遊びですが,レートは低く,授受点 1 点あたり 1~2 円程度に設定するのが普通です.
点数計算には,ゲーム点を使います.ゲーム点は,親の宣言によって決まり,6 の代は 2 点,7 の代は 4 点,8 の代は 6 点,ミゼールは 10 点,9 の代は 8 点, 10 の代は 10 点です.
成績は次のように計算します.失点が一番少ない人の失点が 0 になるように,全員の失点から同じ点数を引きます.ついで,各人が,自分の失点を 10 倍してから全員の人数で割った結果を自分以外の人ひとつずつに渡します.“人からもらった点の合計-人にあげた点の合計”が成績です.端数は,勝った人が損し負けた人が得するように丸めます.“人からもらった点の合計-人にあげた点の合計-(失点-全員の失点の平均)×10”を計算しても,同じ結果が得られます.
ルールと点数の体系で最も一般的なのは,サンクトペテルブルク (レニングラード) 風とソチ風です.サンクトペテルブルク,ソチ,フィンランド,ロストフの 4 種類のルールを実装しゲーム記録を公開しているオンラインゲームサイト trellis-club.com のゲーム数では,サンクトペテルブルクが 55%,ソチが 33%,フィンランドが 11%,ロストフが 0.5% を占めます.ルールを 1 つだけ実装する場合,ソチ風が選ばれます.
ソチ風
ソチ風 (Сочинка) は,1960 年代に生まれ,1970 年代初めには最も盛んなルールになっていました.一番人気をサンクトペテルプルク風に譲った今も,プレフェランスの基本ルールとして紹介されることが多いです.サンクトペテルブルク風に比べて,親が有利で,ラスパシーの後の点数とせりの下限の引き上げがありません.
ラスパシーの後に,せりの最低目標もラスパシーの点も上げません.サンクトペテルブルク風のようなラスパシーのルールを使う人もいますが,その場合も,3 手などのあらかじめ決めた手数が過ぎたら,普通の状態に戻します.
宣言が“6 スペード”の場合,子は 2 人とも出なければならないとする人がいます.この強制出場は“スターリングラード”といい,ソチ風以外でも使う人がいます.
親は,宣言を達成した場合,ゲーム点を得点します.
親は,宣言を達成しなかった場合,ミゼール以外では,“不足勝ち数×ゲーム点”を失点し,また祝儀として,同じ点を下りた子を含む子と抜けている配り手 1 人ずつに渡します.ミゼールでは,“勝ち数×ゲーム点”を失点します.
出た子は,目標を達成してもしなくても,“勝ち数×ゲーム点”を親からもらいます.出た子が 1 人のときは,勝ち数として,子 2 人の勝ち数の合計を使います.どんな場合も,この点を下りた子と分け合いません.これを“欲張りな出た子”といいます.なお,ソチ風だけでなく,すべてのバリエーションでも,この点の受け渡しがあるのは,“出た子”がいる場合に限られます.したがって,ミゼールだけでなく,10 の代に子の目標を設けないときも,この点の受け渡しがないことに気をつけてください.
出た子は,子 2 人の勝ち数が目標より少なく,自分の勝ち数が個人目標より少なかった場合,“個人目標への不足勝ち数×ゲーム点”を失点します.このように,子の失点を親の失点と同じにするのを“(出た子の) 全責任”といいます.
ラスパシーは,山札を使い,全員が,勝ち数を失点します.1 勝もしなかった人は, 1 点を得点します.
得点が目標点に達したら,目標点を上回る得点を,目標点に達していない人のうち得点が最大の人の得点につけ,つけた得点の 10 倍の点を得点をつけた人からもらって相殺します.残り 2 人の得点が同じときは,左隣の人につけます.つけた得点で目標点を上回るなら,目標点を上回る点を,他の人につけます.なお,得点を誰につけても,成績の計算結果は変わりません.例えば,目標点が 20 点,得点が A は 18,B は 10,C は 12 のとき,A さんが 8 の代の宣言を達成したら,得点 6 のうち 2 で目標の 20 点に到達するので,2 点を自分の得点欄につけ,残りの 4 点を C さんの得点欄につけます.そして,A さんが C さんからもらった点の欄に,4×10=40 点をつけます.全員が目標点に到達したら終局です.目標点を上回る得点が余ったら,自分の失点を余った得点だけ減らします.これで失点が負になってもかまいません.
全員が目標点に到達していなくても,終局に合意したら,“目標点-得点”を各人の失点に加えてから,成績を計算します.
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